砂の城

4月になり、新年度が始まりました。
今、我々機械加工会社で最も神経を使ってる話題。
それは「油」です。
中東情勢に起因する物流の混乱により、機械油メーカー各社で出荷制限が始まってます。

作動油、潤滑油、冷却油、切削油等々。現場を支える油全体に波が来ています。

我々機械加工会社にとっては死活問題ですよね。
油が無ければ機械はただの鉄の塊になります。

ですがもっと大きい問題は、既にはじまっています。
「油が高くなる」
「油が入りにくくなる」
それだけなら、まだ単なるコスト高の話で済むかもしれません。

しかし、実際にはそれで終わりません。
ここ数年、製造業全体では良くない時期が続いてました。
それでも「年度明けからは多少動きが良くなりそう」と言う空気はあったように思います。
それが今回の中東問題で一気に冷えちゃいました。
今まで我慢してた現場も今回の出来事は大きかったと思います。

そして、こうした影響を真正面から受けるのは、大企業よりも我々のような中小・小規模の加工会社です。
大企業は在庫を持ち、調達力があり、価格転嫁の余地も比較的大きい。
一方で中小企業は、必要なものを必要な時に買い、限られた原価の中で現場を回しているところが多い。

こうした混乱が長引けば長引くほど、先に苦しくなるのは裾野の企業です。
そして、この「裾野」が崩れ始めると、問題は一社一社の経営だけでは済まなくなります。
町工場が減る。
表面処理業者が減る。
材料屋が弱る。
運送が細る。
修理や保全にすぐ動ける人がいなくなる。
そうやって、これまで日本のものづくりを下支えしてきた外周が、少しずつ削られていきます。
と言うか既に削られていて、その動きはデータに顕著に出てる。

帝国データバンク(TDB)の資料を見ても、倒産の中心は大企業ではなく小規模事業者。
2025年は負債5000万円未満の倒産が全体の62.2%を占め、2026年1月も61.4%と高水準が続いてます。
しかもTDB自身が「小規模企業を中心に、物価高、賃上げ、人手不足、追加利上げ、価格転嫁難などで倒産が増加」と整理している。
つまり今起きているのは、大きな会社が派手に倒れる不景気ではなく、裾野の会社から先に削られていく構図なんです。

一見すると、大企業は残るでしょう。
看板も残る。工場も残る。受注もゼロにはならない。
けれど、その周囲を支えていた小さな会社が消えていけば、以前と同じようには作れなくなる。
納期は延びる。
コストは上がる。
品質の振れ幅も大きくなる。
急な対応や細かな修正を吸収する余力も失われる。

本当に怖いのは「中東発の不景気」という事ではありません。
もっと静かで、もっと深刻なことが起きはじめている訳です。
日本のものづくりが、土台から痩せていってる。

海辺で作った砂の城は、いきなり本丸から壊れるわけではありません。
波が何度も寄せては返し、周りから少しずつ削っていく。
小さな櫓が崩れ、外周が欠け、裾がえぐられていく。
外から見れば、まだ城の形は残っている。
けれど、足元では確実に崩れ始めている。

今の日本の産業構造は、まさにそんな姿に重なって見えます。

現状、大企業だけでは、ものづくりは成り立ちません。
小さな会社がいて初めて、全体が回る。
安く、早く、細かく、無理を吸収しながら支えてきたのは、名もない中小・小規模の現場です。

まだ城は立っています。
けれど、波はもう来ています。
本当に見るべきなのは、目立つ本丸ではなく、先に削られていく外周なのだと思います。

ではどうすれば?
砂の城を守って行くには、適正な価格転嫁で防波堤を作って、付加価値を高め裾野の耐久性を上げる。
後は、城~裾野全体を別の場所へ移す、つまり産業構造そのものを見直すという手もあります。
ただし、それは一社単位でどうにかなる話ではなく、全体で当たるべき課題でしょう。

もう「誰かが何とかしてくれるだろう」で済む段階ではありません。
一社一社、一人一人が意識しなきゃいけない段階に来てるんだと思います。


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